2011年7月29日

佐賀大学医学科6年生の『地域医療実習』

佐賀大学医学科6年生には実習のひとつとして『地域医療実習』があります。

これは必修の実習で、2週間のうち、1週間ずつを佐賀県内(おもに佐賀市内)の診療所と地域の中核病院で実習し、「地域医療の現場」を体感してしてもらうのが目的です。

前年度までは総合診療部が担当され、今年度より当講座が担当しています。

毎年、佐賀県内の診療所・病院の先生方や看護師、理学療法士をはじめとしたメディカルスタッフの方々にお世話になっています。

診療所や病院によっては、訪問診療・訪問看護にも同行させていただきます。

10名ほどのグループで実習があり、基本的には各施設に1名ずつで実習を指導してもらっています。

金曜午後に大学に戻ってきてもらい、それぞれの体験・学びを共有するために学生が司会・書記役を行い、ひとりずつ1週間の気づきを発表しディスカッションを行います。

なるべく先入観を持たずに現場を感じてもらうため、実習の初日にはあえて僕らからは地域医療についての詳しい話はせずに、1週目の金曜日に中間まとめとして地域医療の概論を15分ほどお話しています。

でも、さすがは佐賀大学の6年生で、みんな、きちんと地域医療の見るべきポイントを見てきてくれています。

たとえば

地域医療では医師と患者の距離がより近く、患者さんのお話をより長くきことが出来(施設によっては大学病院の外来よりも忙しいが)、患者や家族の信頼が厚いこと。

地域ではたとえ、その先生がもともとの専門があっても、その専門科に限らないさまざまな患者さんのニーズがあり、医師は幅広く、そのニーズに応えなければならないこと。

医師、看護師だけでなく、様々なメディカルスタッフやケアマネージャーなど他職種で地域医療を支えていること。

などなどです。

どうしても日本の医学部の実習や研修医の初期研修は、大学病院や総合病院がメインになってしまうのですが、日本の医療現場はそういった病院だけでは当然なく、様々な医療現場や地域で患者や病気の背景は異なり、患者さんや住民のニーズはそれぞれ違います。

その事を頭で理解はしていても、いつの間にか、学生や研修医にとっての医師、患者像、医療に対するイメージのスタンダードが大学病院などの高度専門機関でのそれになってしまいます。

確かにそういった高度医療機関は大切なんですが、医療のイメージがそこだけに偏ってしまうと「日本の医療の全体像」が見えなくなり(あるいは全体像に気が付くのが働きだしてからかなり経ってからになり)医師の偏在や進む科の偏の原因になるのかも知れません。

僕がよく学生さんに話すのは「大学病院の医者を見てごらん。40代-50代のおじさんやおばさんの医者ってそんなにいないやろ?つまりその年代の医者は科に限らず、地域で働いているんだよ。」ってことです。
(まあ、40代がおじさんやおばさんかという議論はここではしないでおきましょう。 例え話ですので)

将来に進む科がなんであれ、長い医者人生では多かれ少なかれ地域の現場で働く機会があります。
また総合病院で働いていても、患者さんの入院前後の地域での医療の係わり方や地域での生活がどのように支えられていることをきちんと理解しておくことは、目の前の患者さんのマネジメントにもつながり、患者さんにより良い医療・ケアを提供できることになると思うのです。

ほんとはもう少し早い時期にも一度、地域医療の実習があった方がいいなと思います。


今日で6年生全員の地域医療実習が終わりました。

受け入れ施設の皆様、ありがとうございました!
後日に6年生のディスカッションやレポートから、各施設にもフィードバックをさせていただこうと思っております。

6年生は今日で他の実習も終わりだそうで、これからは国試勉強に集中ですね。

お勉強と学生最後の夏休みを謳歌してね~

(総合内科部門 坂西雄太)

2011年7月26日

本日 総合内科医育成 後期研修プログラム説明会 です!

アナウンスが直前で申し訳ないのですが・・・

本日(7月26日火曜日) 
佐賀県立病院・好生館で当講座の『総合内科医育成 後期研修プログラム』の説明会&懇親会を行います!

初期研修医の先生を対象としていますが、学生さんの参加も大歓迎です。

7月26日(火曜)
19:00~
佐賀県立病院・好生館
南棟 1階 研修室にて

20:00~
佐賀駅南のお店にて懇親会(飲み会)


です!
一緒に生ビール飲みましょう笑

(総合内科部門 坂西雄太)

2011年7月11日

シンポジウム『わが国のワクチン行政とプライマリ・ケア医の担うべき役割を考える』のご報告

佐賀は梅雨が明け、蝉が鳴き始めた今日この頃です。

さて、ご報告が遅くなりましたが、7月2日に札幌で開催された第2回日本プライマリ・ケア学会学術大会のなかで、当講座と佐賀大学病院 総合診療部の共同企画によるシンポジウム『わが国のワクチン行政とプライマリ・ケア医の担うべき役割を考える』を行いました。

札幌で土曜日の朝9時からという早い時間にも関わらず多くの方にお越しいただきました。

シンポジウムは全体で90分しかなかったため、5人のシンポジストのみなさんに10数分ほどずつお話しいただき、最後はフロアとのディスカッションを行いました。

以下、各シンポジストの皆さんのお話の一部を簡単に箇条書きで述べたいと思います。


薗部友良先生
(日赤医療センター小児科顧問、「VPDを知って子どもを守ろう。の会」代表)

小児がんでさえ7割治る時代に、ワクチンで防げる病気(VPD)に対してワクチンをしないのはネグレクト。

日本のワクチン行政の問題の根本は、実は「司法の考え方」が大きい。無過失補償制度が必要。

WHOは先進国では水痘やムンプスの定期接種を勧めているが、日本では任意接種。水痘でも重症化すると死亡例もある。

マスコミの報道は「有害事象」をすべて「副作用」として扱っているが、真の副作用とそうでないものの区別必要。真の副作用であるアナフィラキシーショックは、ワクチンの材料にゼラチンを使用しなくなってからは減っている。重症免疫不全(SCID)の子どもは、周りの子供たちがワクチンを打って、ワクチンを打てない子供たちを守るべき。

ロタウイルスのワクチン(ロタリックス)が昨日(7月1日)に日本でも承認された。2-3か月後に発売予定。

「VPDを知って子どもを守ろう。の会」のホームページでは、ロタウイルスワクチンも含めたワクチン接種スケジュールを公開している。


岩田健太郎先生
(神戸大学 感染症内科)

不活化ポリオワクチンとヒブ、肺炎球菌ワクチンの同時接種を小児科医に断られた。
その医師は、子どものためを考えてではなく、自己の保身を考えているのではないか。
子どもではなく、自分の安全に目が向いている(詳細は岩田先生のブログ参照)。

海外では、同時接種で使用されているものを、日本で同時接種できないのはおかしいのではないか。

ワクチンに限らないが「もし、~~が起こったら、誰が責任を取るんだ」ということに怯え、思考停止に陥り、自主規制してしまう人が多い(これは放送禁止用語にも言える)。

医師として、プロとしての誇りと責任をもって、同時接種をしてほしい。


高畑紀一先生
(「細菌性髄膜炎から子どもたちを守ろう」会 事務局長)

ワクチンを受ける子どもの親の立場から。
子どもが3歳のときにヒブ髄膜炎にかかった。のちにヒブワクチンのことを知り、「ワクチンがありながら、守ってあげられなかった」と自己を責めた。

わが国での悪しきパターナリズム。「国がしていないから、必要性が低いハズ」と自分で考えなくなってしまっている人もいる。

キング牧師の言葉『善意の人の沈黙と無関心』に示されるように、無関心の中間層をどうするかが課題。

「ワクチンの恩恵=何もおこらないこと」なので一般の方に、ワクチンの重要性が伝わりにくい。

また、一般の方の科学に対する認識は「白黒つけてほしい、ズバっとはっきり言ってほしい」と思っている。実際の科学とはそういうようなものではないが、医療者には、そのような一般の認識を意識して説明を行っていただければと思う。


堀成美先生
(聖路加看護大学)

一般の方は、ネットでワクチンを検索しても、なかなかワクチンの正確な情報にたどり着けない。
とくに任意ワクチンについて(アクセスしやすい形で)情報提供している国の機関や行政のホームページは少ない。情報が不足している。

ワクチンは乳幼児期のみではない。学童、学生にも教育は必要。誰にどのように伝えるか。青年期からは母子手帳やワクチン接種記録を自己管理すべき。

現在、保護者の任意ワクチンの接種希望を医師が否定する困った状況も耳にすることもある。医療者間でも任意ワクチンに対しての認識のズレがある。助産師雑誌でも今回はじめてワクチン特集があった。

プライマリ・ケア連合学会もぜひ、ワクチン接種の指針を示してほしい。


で、僕は元・幌加内町保健福祉総合センター長として、北海道幌加内町における6種(インフルエンザ、ヒブ、小児用肺炎球菌、水痘、おたふくかぜ、HPVワクチン)任意ワクチンの公費全額助成(自己負担なし)制度と医師・保健師による住民へのワクチン啓発によって、ワクチン接種率が向上した事例について報告しました。

国による定期接種化が望まれるのは、もちろんですが、それがなされるまでは、地方自治体独自のワクチン政策も必要だと思います。

幌加内町は人口も少なく、より少ない予算で公費助成が行えるのは確かですが、大きな自治体でも予算額そのものの印象で判断するのではなく、一般会計全体に対する割合で判断していただければと思います。幌加内町のワクチン公費助成事業の予算は、町の一般会計の0.1%弱です。

また、いままでは一般市民の方や小児科医や産婦人科医の先生方が必要な任意ワクチンの定期接種化をすすめるべく様々な活動をされてきましたが、プライマリ・ケア従事者の学会である日本プライマリ・ケア連合学会としても、他団体と協力して、ワクチン問題に取り組んでほしいと思います。


その後、フロアの皆さんとの質疑応答・ディスカッションを行いました。

ワクチン接種の手技や制度など実践に関する質問が多いのではと予測しておりましたが、実際は「日本プライマリ・ケア学会として、もっとワクチンについて情報発信すべきではないか」「小児のみならず、全年齢層でのワクチン接種スケジュールを学会として作れないか」「性教育、健康教育時にどのようにワクチン教育を行ったらよいか」「個々のワクチン接種歴の管理には、どのようなツールが有効か」といった前向きな発言・質問が多く、大変議論が盛り上がり、時間が足りないほどでした。

今後、学会としてワクチンについて取り組む際には、積極的に協力すると発言していただいた先生もおられ、皆さん、それぞれに何とかしなければと思われていた方が多いことを実感し、とても希望が持てました。
また個人的には、ついつい「ワクチン制度」や「ワクチン行政」など大きなところに目が向いてしまっていましたが、制度(ハード)に対して、もう一方で大切な住民(国民)へのワクチンに関する情報提供、住民がワクチンに対して不安や不信に思っていることに応えること(ソフト)も大切だということを改めて、学びました。

岩田先生の言葉にあった「それぞれが明日からできることをする」という、基本的なことにも立ち返りたいと思いました。
また高畑さんが言われた「1人が10言ってもなかなか一度には伝わらない。10人が、それぞれの機会で1ずつ話せば、最終的には10伝わると思う」という言葉にも、それぞれの現場での地道な取り組みの大事さを改めて感じました。

プライマリ・ケア連合学会の今回の震災医療支援のプロジェクト名は”Primary Care for All Team” ですが、ワクチンもまさに接種される個人はもとより、集団免疫を上げてみんなの健康を守るという”Vaccination For All” でもあります。

学会としての取り組みのためには、その準備等、少し時間がかかるとは思いますが、小児科医や産婦人科医だけではカバーできない世代も含めて、ワクチンについての情報提供や健康教育についてプライマリ・ケア医が関われることはとても多いと思います。

常に住民側を向いているプライマリ・ケア連合学会としての、これからの動きにとても期待をしています。もちろん、僕らにできることは何でも協力させていただこうと思っています。

(総合内科部門 坂西雄太)
 
※薗部先生の部分を次のように訂正しました。間違った記載をしたことをお詫びいたします。(7月14日)
「WHOは先進国では水痘やムンプスの定期接種を勧めているが、日本では定期接種→日本では任意接種」

2011年7月8日

平成24年度 総合内科医 育成 後期研修プログラム 説明会のお知らせ

暑い日が続きますが皆様お変わりないでしょうか。

今年も当講座の『総合内科 後期研修プログラム』の説明会を行いますので、どうぞ奮ってご参加ください。


場所:佐賀大学病院 卒後臨床研修センター 1階セミナー室

日時:7月13日(水) 午後6時30分~


「総合内科って?」、「日ごろはどこでどんなことをしているの?」、等の素朴な疑問にもお答えできればと思っています。

当日よろしくお願いいたします。
(総合内科 杉岡)

2011年7月1日

札幌 プライマリ・ケア連合学会でシンポジウム&ポスターのお知らせ

お知らせが直前になってしまいましたが(汗)
明日から札幌で行われる第2回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で
シンポジウムとポスター発表を行います。

明日(7月2日土曜)シンポジウムは以下のとおりで、ワクチン行政とプライマリ・ケア医の役割をみんなで考えよう!というものです。
企画した自分で言うのもなんですが、素晴らしいシンポジスト(あ、僕以外ですよ)をお呼びしていて、日本のワクチン行政をいろんな角度から考えることができると思います。
なるべくフロアとのディスカッションにも時間を割きたいと思っています。

そして、今後プライマリ・ケア学会としてもワクチンに対して、より積極的に一般の方や医療者に情報提供を行うようになってくれればという願いも込めています。

7月3日(日曜)には、東日本大震災 支援活動のポスター発表もいたします。
僕はPCAT涌谷で参加させていただいた『地域連携型 医療的避難所「ショートステイベース(SSB)」』について発表します。

PCAT以外の活動報告もあるようです。ポスターは土曜日から掲示されますので、ぜひご覧ください。

札幌で全国のみなさんにお会いできるのが楽しみです!

以下、学会HPよりシンポジウムとポスターの詳細です。


企画名
 【シンポジウム2】
わが国のワクチン行政とプライマリ・ケア医の担うべき役割を考える
(佐賀大学 総合診療部、地域医療支援学講座 共同企画)


日時 7月2日(土) 9:00〜10:30

会場 ホールC  3階 ロイトンホールAB

開催の目的 限りある医療資源のなかで予防医療とりわけワクチンは重要である。
しかし、わが国のワクチン行政は世界の動向よりはるかに遅れており様々な問題を抱えている。

小児科医や産婦人科医とともに、地域医療の担い手であるプライマリ・ケア医こそ、この問題と向き合う必要がある。

ワクチンの意義とわが国のワクチン行政の問題点を理解し、これからのプライマリ・ケア医の担うべき役割を考える。

対象
医師、看護師およびメディカルスタッフ、行政関係者、学生、地域医療・母子保健・健康教育に関心のある全ての方々

司会 杉岡 隆 (佐賀大学医学部地域医療支援学講座)

シンポジスト
 薗部 友良 (日本赤十字社医療センター小児科、「VPDを知って子どもを守ろう。」の会 代表)

岩田 健太郎 (神戸大学病院感染症内科)

堀 成美 (聖路加看護大学 看護教育学)

高畑 紀一 (細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会)

坂西 雄太 (佐賀大学医学部地域医療支援学講座、前・幌加内町保健福祉総合センター長)

企画概要
 医師、教育学、市民より専門家を招き、わが国のワクチン問題について多角的に検討し理解を深める。またプライマリ・ケアの現場での医療機関と行政の連携による取り組みも紹介する。

シンポジウムの後半では、シンポジスト同士や会場とのディスカッションを行い、これからのワクチン行政におけるプライマリ・ケア医の担うべき役割を考える。

各シンポジストには以下について講演していただく。

薗部友良先生および岩田健太郎先生には、それぞれ小児科医、感染症科医の立場から、ワクチンで予防できる病気(Vaccine Preventable Diseases:VPD) に対するワクチンの意義やわが国のワクチン行政の制度上の問題点などについて。

堀成美先生には看護教育学の立場から、市民への健康教育やワクチンに関する情報提供のあり方などについて。

高畑氏には細菌性髄膜炎から子どもたちを守ろう会のこれまでの活動や、患児の保護者としての想い、市民と医療職、行政との連携などについて。

坂西は6種(インフルエンザ、ヒブ、小児用肺炎球菌、水痘、ムンプス、HPVワクチン)任意ワクチンの公費全額助成を実現した北海道幌加内町の取り組みを紹介する。

 
【東日本大震災 支援活動ポスター】
企画概要


2011年3月11日、日本をおそった東日本大震災。

本学会ではいち早く「東日本大震災支援プロジェクト PCAT(Primary Care for All Team)を立ち上げ被災地の支援を継続しております。

今学術大会には実際に現地に向かわれた保健・医療・福祉職の皆様そして、まさしく現地で復興のため日夜がんばっていらっしゃる方も参加されることと存じますので、現地での活動を写真などの記録を交えて紹介するポスターセッションを企画いたしました。
会場は市民公開講座の会場の目の前です。一般の方にも私たちプライマリ・ケアに携わるものの仕事を知っていただく機会にもなると思います。
ポスター展示場所

ロイトン札幌 3階一般ポスター演題と同様のフロア

時間

【ポスター掲示】 7月2日 8:30~13:30

【発表時間】   7月3日 9:30~10:30

【ポスター撤去】 7月3日 15:00まで


(総合内科部門 坂西雄太)