2012年6月28日

母子保健推進員さんに予防接種についてお話しました


佐賀県母子保健推進協議会の伊万里支部と唐津支部の研修会で、予防接種についての講演「赤ちゃんと家族を守るワクチンのお話」をさせていただきました。

今週月曜日と水曜日にそれぞれ有田町福祉保健センターと唐津保健福祉事務所に伺いました。それぞれ3040名ずつの母子保健推進員さんと保健師さんはじめ行政担当者のみなさんにお話を聞いていただきました。

母子保健推進員とは、行政と子育て中のお母さんの橋渡しをする、地域の子育てサポーターとしてボランティアで活動をされています。

今回は、まず予防接種の目的やワクチンの意義について大まかにお話し、定期接種と任意接種の違い、生ワクチンと不活化ワクチンの違いを理解していたただいたうえで赤ちゃんへのワクチンを中心に、家族(おとな)にも必要なワクチンについて簡単に解説をしました。
定期接種ワクチンについては、行政からの情報提供がしっかりしているため、今回は主に任意接種ワクチンのヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、水痘(みずぼうそう)ワクチン、おたふくかぜワクチン、B型肝炎ワクチンについてお話ししました。

厚労省研究班の全国10道県(北海道、福島、新潟、千葉、三重、岡山、高知、福岡、鹿児島、沖縄)を対象とした調査では、2008年から2010年の3年間と比べ、2011年では、5歳未満人口10万人当たりのHib(ヒブ)髄膜炎罹患率が57.1%減少(髄膜炎以外の侵襲性Hib感染症も45.1%減少)肺炎球菌による髄膜炎も25.0%減少(髄膜炎以外の侵襲性肺炎球菌感染症も32.3%減少)したことがわかりました。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrd/1731-kj3853.html

ヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンを定期接種化している海外では、ヒブによる髄膜炎罹患率が99%減少し、肺炎球菌による髄膜炎も75%減少していますので、もっと日本でもこれらのワクチンの接種率を上げれば、より多くの子どもたちを髄膜炎から守ることができます。

あと最近のトピックとしては、水痘ワクチンの2回目の推奨時期が、1回目から412ヶ月後に早くなったこともお伝えしました。
http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_110427.pdf

日本では、現在30歳くらい以上の男性は、風疹ワクチンをしたことがない方がほとんどだと思います。最近は各地で風疹の流行が報告されています。
妊娠初期の妊婦さんが風疹に感染することで、先天性風疹症候群という胎児に影響が出ることがあるため、風疹ワクチンを接種したことのなく(あるいは不明)、かつ風疹にかかったことがない(あるいは不明)な方は女性も男性も風疹ワクチンを打つことをおすすめしました(ちなみに僕も結婚してすぐに麻しん・風しんワクチンをしました)。

また北海道幌加内町の7種任意ワクチン公費全額助成の取り組みもご紹介しました。

最後に母子保健推進員さんへのメッセージとして、先日のHappy Birth Projectでの「妊娠中に必要なサポート」についてのアンケート結果断トツが「周囲のおもいやり」だったこともご紹介しながら、引き続き妊産婦さん・子育て中のお母さんのこころのサポートや「地域」とのつながりのサポートをお願いしたいこと、妊産婦さん・お母さんの年齢層やライフスタイルは様々なため、いろんな形のサポートや啓発の仕方のアイデアを私たち医療者や行政機関に教えていただきたいこと、行政や「地域」と妊産婦・子育て中のお母さんたちとの橋渡しとして、ぜひ子育てに関する住民の声を、自治体や議会につないでいただきたいことをお伝えしました。

また母子保健推進員さんや子育て中のお母さんのための、ワクチンの情報源としてVPDを知って子どもを守ろう。会」のホームページ日本小児科学会国立感染症研究所感染症情報センターのホームページからダウンロードできる予防接種スケジュールについてもご紹介しました。

スマートフォンをお持ちの方には、「VPDを知って子どもを守ろう。会」のホームページから無料でダウンロードできる「予防接種スケジューラー・アプリ」もおすすめです。


伊万里地区での研修会では、講演のあとに「年齢層やライフスタイルが様々な妊産婦さんたちにどのようなサポートができるか、どのようなサポートが良かったか」を母子保健推進員さん同士でグループディスカッションをしていただきました。

最終的には必要なワクチンが、きちんと定期接種化されることが大切ですが、それと並行して自治体や地域でのワクチンに対する正しい理解も大事です。

微力ではありますが、これからも地域の健康を守るために、医療者はもちろん、地域の保健師さんはじめ行政関係者、母子保健推進員のみなさん、一般の方と一緒にワクチンの啓発活動を行いたいと思っています。
(総合内科部門 坂西雄太)

2012年6月12日

子どもの事故(傷害)を防ぐためには


週末は日本プライマリ・ケア連合学会の春季生涯教育セミナーに参加しました。
春季セミナーには様々なワークショップやレクチャーがあるんですが、そのうち2つを受講しました。

今日はそのうちのひとつをご紹介します。
小児科医の山中龍宏先生による『子供の事故を防ぐ知恵と子育て支援』に参加しました。

山中先生は、長年、子どもの事故(傷害)予防の活動に取り組まれ、日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会の委員長もされています。

日本を含め先進国の118才の死亡原因の第1位をご存知でしょうか?
病気と思われるかも知れませんが、それは「不慮の事故」とのことでした。
(※平成21年の日本の14歳、1014歳では第2位のようです。http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html 

ワクチンのよる病気の予防ももちろん大切ですが、事故予防もとても大切なことがわかると思います。

事故(accident)というと「防ぎようのない」というニュアンスが含まれるため、「防ぎ得るのに起きてしまった」というニュアンスを持たせて、現在海外ではinjuryという言葉を用いているそうです。
山中先生は、このinjuryを「傷害」と訳されています。

海外でも、日本でも子どもの年齢に応じて、よく起こる事故(傷害)はわかっていて、海外では食品や生活器具・玩具による事故(傷害)を監視する機関があり、メーカーへのリコールを命じることもあるそうです。

今回のセミナーは、ベビーカーの金具に指が挟まれた赤ちゃんの事例が取り上げられました。米国でも同様の事例があり、対象ベビーカーはリコールされたそうですが、日本の消費者庁は注意のみでリコールには至りませんでした。
(参考:「ベビーカーによる指先の切断」http://www.jpeds.or.jp/alert/pdf/0026.pdf

このような事故(傷害)を繰り返さないためには、現場で親に注意を促すだけでは不十分で、根本的な原因を改善しなくてはなりません。責任の追求ではなく、原因の追求が必要です。

そのために山中先生は、工学系の技術者にも協力してもらい事故(傷害)を起こした器具の構造なども検討し原因と、その改善点を探るとのことでした。
また、そのような構造上の不備が明らかになることによって、事故の予防になることはもちろん、事故(傷害)にあった子どもの親御さんの「自分たちが事故を起こしてしまった」という精神的な負担を軽くすることにもつながります。

また、山中先生は日本小児科学会のホームページに「Injury Alert(傷害注意速報)」のコーナーを作られ、同じ事故(傷害)が繰り返されないために、各事例について詳しく解説されています。

小児の診療に関わる医療関係者のみならず、ぜひ一般の方にも見ていただければと思います。

URLはこちらです
事故(傷害)予防のためには、まず現場の医療機関からの情報提供(サーベイランス)が必要です。
(これはワクチンについても同様で、対象疾患のサーベイランスが大切です)

基本的にはInjury Alertへの情報提供は小児科学会会員からのものですが、日本プライマリ・ケア連合学会会員の医師からの情報提供があれば、小児科学会事務局まで連絡をくださいとのことでした。

以下もご参照ください。

子供の安全ネットワーク・ジャパン
http://safekids.ne.jp/

提言:「事故による子どもの傷害」の予防体制を構築するために
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t62-9.pdf


病気も事故(傷害)も、あらかじめリスクがわかっているものは出来るだけ予防して、子どもたちの成長をサポートできればと思います。
ワクチン問題と同じで、本当は国によるしっかりとした対策が必須ですが、まずは現場ひとりひとりの取り組みが大事です。
(総合内科部門 坂西雄太)