2010年9月19日

第2回 総合内科「ミニ」レクチャー 日程決定!

前回、多くの方に参加いただいた総合内科「ミニ」レクチャーの第2回を行います。

日時:10月4日(月) 18:00~
場所:佐賀大学病院 卒後臨床研修センター 1階セミナー室

今回もメインテーマは臨床疫学(EBM)で、検査結果・データの吟味について杉岡隆教授がお話します。

学生さんや研修医以外の医師、また学外からの参加も大歓迎です。
とくに申し込みも必要ありませんので、みなさんお気軽にお越しください!

2010年9月10日

ワクチンの未来を考える(その2)

続きです。


次に民主党・衆議院議員の吉田統彦さんの講演。

吉田議員は医師でもあり党内の「適切な医療費を考える議員連盟」にも所属し「感染症・ワクチン政策ワーキンググループ」の事務局長をされています。
ご自身も医師として重篤な細菌性髄膜炎の乳児を担当されたことがあるそうです。子どもたちを守るのはもちろん、保護者や小児科医の負担を減らすためにも、そして抗菌薬の過剰使用や医療費の削減など多くの利点からも髄膜炎関連ワクチンの重要性と接種費用の公費負担などの必要性を訴えられました。

現在、来年度の予算概算要求で「子宮頸がん予防対策強化事業」として150億円が計上されていますが、髄膜炎関連ワクチンについては要求されていません(「子宮頸がん予防対策強化事業」の論点については、細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会の高畑さんの記事をぜひ、読んでください!
http://medg.jp/mt/2010/09/vol-276.html#more)。

吉田議員は秋の臨時国会で髄膜炎関連ワクチンについても特別枠として予算概算要求をしたい、今回のHPVワクチン助成をわが国の遅れているワクチン行政改善の突破口にしたいと言われていました。
臨時国会に注目しましょう!

また日本版ACIPを厚労省内ではなく、独立した機関とすべきとの主張されていました。
これは不安定な政局や官僚の影響を受けずに、公正で長期的なワクチン政策を検討するためです。

なお、吉田さんに「北海道幌加内町での6種任意ワクチン公費全額助成」について以前僕が作った資料(幌加内町における平成21年度のヒブワクチン接種率は55.6%(7ヶ月未満児では78.6%)を、公費助成が接種率向上につながった一つの事例としてお渡ししました。


最後に鹿児島大学病院・感染症制御部門の西順一郎先生が、鹿児島県におけるヒブワクチンの髄膜炎予防効果について講演されました。

鹿児島県は現在、8つの市町でヒブワクチン公費助成がなされています。県全体の人口の1/3を占める鹿児島市でも助成があるため、県全体の0歳児のうち54%が補助自治体に住んでいる計算になるそうです。

2009年のヒブワクチン出荷数からのワクチン接種率の推定では、1歳未満児が35.2%(5歳未満児11.2%)で、鹿児島県内の小児ヒブ髄膜炎の数は2010年の8月までで3例で昨年同時期では8例でヒブワクチンの効果が現れているのではないか、とのことでした。

ワクチンは接種率が上がるとワクチン未接種のひとの感染リスクも減り、このことを「間接効果」と呼びます。海外のデータでは、ヒブワクチンの間接効果として「接種率が30%だとヒブ重症感染症が50%減少し、接種率50%では70%減少」という報告があるそうです(Moulton LH,et al.Int J Epidemiol.2000;29(4):753-6)。

鹿児島県ではヒブワクチンの安全性調査も同時に行われています。今後、ヒブ髄膜炎の罹患数、ヒブワクチンの接種率、その効果や安全性について全国各地からのデータの集積が必要です。


現在、厚生労働省の「予防接種部会」では髄膜炎関連ワクチンを含めた8種(ヒブ、肺炎球菌、HPV、水痘、ムンプス、B型肝炎、ポリオ、百日咳)ワクチンについて、今後の予防接種法の対象となる疾病・ワクチンのあり方が議論されています。

専門的な議論を深めると同時に、国民のワクチンに対する不安・心配を払拭するためには責任機関によるワクチンの正確でかつ、わかりやすい情報を国民に提供しなければならないと思います。そして、ホームページのここを見ればすぐに情報が見れますよと言った具合に簡単にアクセスできる必要があります。
また根拠のない「都市伝説的な」(しばしば、大手新聞などのマスコミでさえ間違った情報を流していることがあるのも大問題ですが…)デマ情報もきちんと否定し説明が読めるコーナーも必要と思います。

もちろん、ワクチンで予防できる病気についてもワクチンのみが大切なのではなく、それ以外の予防法など(たとえば子宮頸がんでは、定期的ながん検診受診(子宮頸がん検診の受診率は欧米で7-8割に対し、なんと日本は3割以下です。トホホです。)やコンドーム使用、性交開始年齢を遅らすなど)も同時に提示すべきと思います。

また小学校や中学校からの「予防医療」教育も必要だと思います(医学部の学生教育でさえ、ほとんど「予防医学」「予防医療」についての授業がないのも問題だと思いますが)。

つまらない「壁」を取っ払って、科学的で実践的なワクチン政策を決定する仕組みが本当に必要と思います。

(総合内科 さかにし)

2010年9月8日

ワクチンの未来を考える(その1)

8月28日に博多で開催された第20回日本外来小児科学会の年次集会に参加しました。

昨年、僕が幌加内町国保病院に勤務しているときに細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会の皆さんから声をかけていただき、同学会でのシンポジウムで幌加内町の任意ワクチン公費全額助成の経緯についてお話させていただきました。

今回は、受講者としてシンポジム「髄膜炎関連ワクチンの導入経緯からワクチンの未来を考える」(座長:細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会副代表/耳原病院小児科の武内一先生)に参加しました。

「2008年12月から接種可能となったHibワクチンは4回で約3万円という価格に、緩和されつつあるが供給不足が続き、今年2月発売の小児用肺炎球菌ワクチンは安定して供給されているが4回で約4万円かかるため、普及は十分進んでおらず、いまも接種を待つ子どもたちに髄膜炎が発症するという事態が繰り返されている。しかし、ほとんどすべての海外先進国では、これらワクチンを定期接種化することで、小児の主要な重症感染症は過去の疾患となり、時間外診療の軽減をはじめ小児医療の負担が大幅に緩和されている。」(抄録より抜粋)という国内外の背景があります。

「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」からは事務局長の高畑紀一さんと会長の田中美紀さんより講演がありました。

同会は、細菌性髄膜炎に罹患した子どもたちの保護者の方々を中心に活動されている会です。髄膜炎関連ワクチン(Hibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン)の定期接種化を求め過去3年間で計4回のべ20万筆の署名を集め、厚労省や衆参両議院長への請願や、厚労省大臣・副大臣にも陳情されています。それ以外にもセミナー、シンポジウムやメディアでの情報発信なども行われています。
かつて日本のマスコミではワクチンの副作用ばかりが強調され、作為過誤(「するべきでなかったのに、した」)を重視する世論が作られたことが日本のワクチンギャップ(ワクチンラグ)、ワクチン後進国の原因の一つになりました。ワクチンの有害事象を0.00%にすることは困難ですが(これはワクチンに限らず、一般の薬についても言えます)、「ワクチンを接種しないことによる被害者の存在(不作為過誤「するべきだったのに、しなかった」)もしっかりと認識すべきと守る会のお二人も主張されていました。
日本では米国と比べ、ヒブワクチンの導入は20年遅れました。この20年で救えなかったヒブ髄膜炎で亡くなった子どもたちは概算でも600名、後遺症は負った子どもたちは1800名と考えられています。有害事象が起きた際の補償の充実も必要です。
また今まで小児科医などワクチンの必要性を説く声は絶えずあがっていましたが、これからはワクチンを受ける側(国民)からも声を上げ議論に参加したうえでの、国民的合意の必要性も訴えておられました。
そして現在、髄膜炎関連ワクチン(ヒブ、小児用肺炎球菌ワクチン)は任意接種のため全額自己負担になりますが、一部自治体では公費助成を行っており(ヒブワクチンの接種費用助成を行っている自治体は全国の約12%だそうですhttp://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/eb138d955652bfd14925775a0025c057/$FILE/20100708_2shiryou8-2.pdf)、
経済格差や地域格差が「いのちの格差」になっていると指摘され、これらのワクチンの定期接種化の必要性を説かれていました。

次に「米国のワクチン事情~細菌性髄膜炎ワクチンとACIP~」というテーマで国立感染症研究所感染症情報センターの神谷元先生から講演がありました。
神谷先生はご自身の米国での保健所(のような施設)での勤務経験も交え米国のワクチン政策決定の過程を説明されました。

米国にはACIP(Advisory Committee on Immunization Practices:予防接種の実施に関わる諮問委員会)という国から独立した組織があります。
ACIPはワクチンの専門家のみならず多方面の代表者が一同に会して科学的な根拠に基づいたオープンな議論を行い、ワクチン行政への指針を作成し国に助言して、これが政策に反映されます。また現行のワクチン政策の評価と改定を検討したり、ワクチンの品質・安全性もACIPでモニタリングされます。そして、これらのためには現場から正確で膨大なデータの集積が必要です。

現在、日本版ACIPの必要が叫ばれていますが、神谷先生が特に強調されていたのは「ACIPは氷山の一角であり、その水面下には現場の医師、研究者、保健所、製薬会社など多数の人々の協力・努力がある」ということでした。
形だけのACIPを導入するのではなく、それを支える大きな連携、システムを同時に作ることが必要です。
(「日本版」ACIPについては、神戸大・岩田先生や守る会・高畑さんのこちらの記事もご参照ください。http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/cf4e4a60fbae73f1806a83aad7963095http://medg.jp/mt/2009/09/-vol-245-acip.html


続く!
(写真は神谷先生とさかにし)

2010年9月7日

子ども救急の新システム

ご報告が遅くなりましたが、
8月21日に佐賀市で開催された第6回九州・沖縄小児救急医学研究会は無事に終了しました。

当日は救急の会ということで99名(って偶然です)の参加がありました。
佐賀大学小児科とその関連施設からは5名、本講座からは総合内科部門の坂西と小児救急総合部門の辻講師が発表を行いました。

小児救急医学研究会ということで、臨床に即した発表が多く勉強になりました。


当日はサガテレビの取材も入っており、その様子が…

STSサガテレビ かちかちワイド内の「健康バンバン!」で9月2日に放送されました!

当講座・小児救急総合部門の人見准教授が生放送で出演し、小児救急総合部門が取り組んでいる佐賀の「子ども救急の新システム」について放映されました。
かちかちワイドのホームページから(こちら)視聴できますので、是非ご覧ください!!

(総合内科部門 さかにし)