2010年9月10日

ワクチンの未来を考える(その2)

続きです。


次に民主党・衆議院議員の吉田統彦さんの講演。

吉田議員は医師でもあり党内の「適切な医療費を考える議員連盟」にも所属し「感染症・ワクチン政策ワーキンググループ」の事務局長をされています。
ご自身も医師として重篤な細菌性髄膜炎の乳児を担当されたことがあるそうです。子どもたちを守るのはもちろん、保護者や小児科医の負担を減らすためにも、そして抗菌薬の過剰使用や医療費の削減など多くの利点からも髄膜炎関連ワクチンの重要性と接種費用の公費負担などの必要性を訴えられました。

現在、来年度の予算概算要求で「子宮頸がん予防対策強化事業」として150億円が計上されていますが、髄膜炎関連ワクチンについては要求されていません(「子宮頸がん予防対策強化事業」の論点については、細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会の高畑さんの記事をぜひ、読んでください!
http://medg.jp/mt/2010/09/vol-276.html#more)。

吉田議員は秋の臨時国会で髄膜炎関連ワクチンについても特別枠として予算概算要求をしたい、今回のHPVワクチン助成をわが国の遅れているワクチン行政改善の突破口にしたいと言われていました。
臨時国会に注目しましょう!

また日本版ACIPを厚労省内ではなく、独立した機関とすべきとの主張されていました。
これは不安定な政局や官僚の影響を受けずに、公正で長期的なワクチン政策を検討するためです。

なお、吉田さんに「北海道幌加内町での6種任意ワクチン公費全額助成」について以前僕が作った資料(幌加内町における平成21年度のヒブワクチン接種率は55.6%(7ヶ月未満児では78.6%)を、公費助成が接種率向上につながった一つの事例としてお渡ししました。


最後に鹿児島大学病院・感染症制御部門の西順一郎先生が、鹿児島県におけるヒブワクチンの髄膜炎予防効果について講演されました。

鹿児島県は現在、8つの市町でヒブワクチン公費助成がなされています。県全体の人口の1/3を占める鹿児島市でも助成があるため、県全体の0歳児のうち54%が補助自治体に住んでいる計算になるそうです。

2009年のヒブワクチン出荷数からのワクチン接種率の推定では、1歳未満児が35.2%(5歳未満児11.2%)で、鹿児島県内の小児ヒブ髄膜炎の数は2010年の8月までで3例で昨年同時期では8例でヒブワクチンの効果が現れているのではないか、とのことでした。

ワクチンは接種率が上がるとワクチン未接種のひとの感染リスクも減り、このことを「間接効果」と呼びます。海外のデータでは、ヒブワクチンの間接効果として「接種率が30%だとヒブ重症感染症が50%減少し、接種率50%では70%減少」という報告があるそうです(Moulton LH,et al.Int J Epidemiol.2000;29(4):753-6)。

鹿児島県ではヒブワクチンの安全性調査も同時に行われています。今後、ヒブ髄膜炎の罹患数、ヒブワクチンの接種率、その効果や安全性について全国各地からのデータの集積が必要です。


現在、厚生労働省の「予防接種部会」では髄膜炎関連ワクチンを含めた8種(ヒブ、肺炎球菌、HPV、水痘、ムンプス、B型肝炎、ポリオ、百日咳)ワクチンについて、今後の予防接種法の対象となる疾病・ワクチンのあり方が議論されています。

専門的な議論を深めると同時に、国民のワクチンに対する不安・心配を払拭するためには責任機関によるワクチンの正確でかつ、わかりやすい情報を国民に提供しなければならないと思います。そして、ホームページのここを見ればすぐに情報が見れますよと言った具合に簡単にアクセスできる必要があります。
また根拠のない「都市伝説的な」(しばしば、大手新聞などのマスコミでさえ間違った情報を流していることがあるのも大問題ですが…)デマ情報もきちんと否定し説明が読めるコーナーも必要と思います。

もちろん、ワクチンで予防できる病気についてもワクチンのみが大切なのではなく、それ以外の予防法など(たとえば子宮頸がんでは、定期的ながん検診受診(子宮頸がん検診の受診率は欧米で7-8割に対し、なんと日本は3割以下です。トホホです。)やコンドーム使用、性交開始年齢を遅らすなど)も同時に提示すべきと思います。

また小学校や中学校からの「予防医療」教育も必要だと思います(医学部の学生教育でさえ、ほとんど「予防医学」「予防医療」についての授業がないのも問題だと思いますが)。

つまらない「壁」を取っ払って、科学的で実践的なワクチン政策を決定する仕組みが本当に必要と思います。

(総合内科 さかにし)

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