2011年12月19日

みんなでつくる地域医療講演会@武雄市

1211日に佐賀県武雄市で開催された『みんなでつくる地域医療講演会』に行ってきました。

講師は北海道の医療法人財団「夕張希望の杜」理事長の村上智彦先生でした。
医師の村上智彦先生は北海道瀬棚(現せたな)町立診療所長をされていた平成13年に肺炎球菌ワクチン(成人用)ワクチンの公費助成を日本で初めて実現されました。同町で予防医療に取り組みながら介護・福祉・医療が連携することにより住民の健康を守り、町の医療費を大幅に減少させた実績があります。
平成19年からは財政破綻した北海道の夕張に移住し、市立総合病院の経営再建に関わり、現在は夕張医療センターとして公設民営化された夕張市立診療所、介護老人保健施設夕張を夕張希望の杜が指定管理者となって運営され、夕張の地域医療再生に従事されています。

僕も北海道幌加内町に勤務しているときに村上先生の講演を聞いたり、幌加内町の議員さんたちとともに夕張を訪ね、地域医療・介護・福祉のお話をしていただき、とても刺激を受けました。

樋渡啓祐武雄市長の挨拶のあとに、たくさんの夕張の美しい自然や石炭産業の遺跡の写真も交えながらのお話が始まりました。

平成19年に財政破綻し財政再建団体となった夕張市は、人口約10000人で高齢化率は44%で日本一です。いまの全国の高齢化率の平均は22-23%ほど(それでもこの高齢化率は世界一です!)ですので、夕張のそれは全国平均の2倍にあたります。2050年には日本全体の高齢化率は40%を超えるとのことで、つまり僕らの子や孫の世代が担う将来の日本社会を、いまの夕張に見ることができ、夕張がますますの超高齢化社会を迎える日本のモデルになれるように頑張られています。夕張の話は明日の我が身と思って聞いてくださいとのことでした。

村上先生のお話はテンポよく、面白くて、迫力があって、かつ納得できるものでしたが盛りだくさんなので、その中から一部をご紹介します。

北海道というと「健康」なイメージがあるかも知れませんが、核家族率、インフルエンザの患者数、人口あたりベッド数、喫煙率などが高く、在宅死が日本一少なく、医師の65%が札幌、旭川に集中してしまっていて、医療費も日本一高いというころで、健康意識が高いとは言えないようです。

ところで「健康」とはなんでしょうか?病気にならないことが健康でしょうか?
高度先端医療がすぐに受けられる環境にあると健康になるのでしょうか?
そうであれば東京や大阪などの都会の方が健康、長生きできることになりますよね。

日本で一番長生きな地域はどこでしょうか?会場からは沖縄との応えがありましたが、実は沖縄県の長寿率は今や全国26位に落ちてしまっているそうです。
これは昔ながらの沖縄食から、欧米食に変わっているからではないかとのことでした。では一位は?長野県です。長野県にはけっして高度最先端医療を提供する病院が多いわけではありません。長野県は以前より予防医療に取り組んでいて、県民の健康意識が高いからです。

ここでポイントは、県民の健康に対する普段からの「意識」が高いということです。
しかし、というより、だからと言うべきかもですが、長野県の医療費は日本一「低い」んです。医療費をかけるから(病院にかかるから)長生きできるわけではなく、普段からの意識、生活習慣が大事です。

食事と生活習慣でがんの半分は予防でき、歯周病を予防することで肺炎、脳卒中、認知症を減らすことができます。脳卒中や心筋梗塞の原因となる動脈硬化の進行を送らせるためには、食事や運動、喫煙で高血圧、高コレステロール、糖尿病を予防することが大切です。

もちろん必要なことにはきちんと医療費をかけることが必要です。
日本の医療はWHOから「世界一」と評価されていますが、諸外国と比べると国のGDPに対する医療費は決して高くなく、そのしわ寄せは医療者の過剰労働などへの負担になっています。

日本は医療費よりも公共事業にお金をかけています。
その例として、高速道路に1kmおきにある緊急電話は250万円するそうですが、医療費はお産が30万円、胃がん120万円、盲腸34万円で諸外国と比べても低いです。

しかも、世界一の医療にも関わらず、国民の医療への満足度は世界一(?)低いという、たいへんトホホな結果です。

医療者が努力すべき点は多々あると思いますが、国民の医療への過剰な期待があるのではないでしょうか。救急車はタクシーではなく、ひとは100%死を迎えます。病気が治らないこともあります。でも病気になったのは病院がなかったからでしょうか?世界一良い医療を受けていて、世界一位の長寿で、しかも国は借金まみれの状況でこれ以上なにを望むのでしょうか?借金のつけを子や孫に押し付けていいのでしょうか?

さきほどの「健康」とは何かの問いに対して、WHOは「健康とは、単に病気でないということではなく、身体、精神および社会的に良い状態にあることである」と定義しています。病気がない、ことだけが健康なのではなく生き甲斐など、その人がその人らしく暮らせることも健康の要素になっています。

夕張では、病気を治すことだけを目標とせず「高齢者の日常を取り戻すこと」を最大のテーマとし、お年寄りが元気だったときに出来たこと、好きだったことを再現することを目標とされ、入所中の方でも好きだったパチンコや寿司屋に職員とともに行ったりしたりされているそうです。

そんなときに「何かあったらどうする?」と家族から聞かれることもあるそうですが、「何かとは何ですか?生きている限り必ず何かあります。病院に任せっきりでは困ります。家族・本人もきちんと考えてください。」とお話されるそうです。

大学病院などの高度専門医療機関では病気を治す=戦う医療を目的としていますが、高齢者の医療とは、その生活を支える=支える医療であるべきだと村上先生は主張されています。

もちろん夕張では予防医療にも力を入れ、入所者は全員、口腔ケア、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンをされています。口腔ケアと肺炎球菌ワクチンによって誤嚥性肺炎を大幅に予防できることができます。

などなどここには書ききれないくらい、たっぷりお話していただけました。

『地域に愛着を持って、住み慣れた地域で安心して暮らして、そして死んでいける』ことを目標に村上先生はじめ夕張希望の杜のスタッフは活動されています。

村上先生の言葉はときに厳しく感じることもありますが、人々が自分の健康、家族の健康を人任せにせず、普段からの意識を持って生活することによって、結果的にはその人が幸せに暮らせること、次世代に過度な負担をかけることなく次世代や世界の人々が少しでも幸せに暮らせることを願っておられるのだと感じました。

少子高齢化、財政の不安的さは夕張に限ったことではなく、日本全体が抱える問題です。現在の「医療」が継続困難なことは目に見えています。人間はみな、いつか亡くなります。その限られた時間を単なる延命を目的とするのではなく、いかにその人らしく生きていけるか、そのためにはどうするかを個々が考えなくてはなりません。佐賀でも予防医療や患者さんの生活に視点をおいた活動をしていきたいと思いました。
(総合内科部門 坂西雄太)





2011年12月6日

長崎大学病院 へき地病院再生支援・教育機構「医学ゼミ」で講義しました

12月2日に長崎大学病院 へき地病院再生支援・教育機構の「医学ゼミ」でお話をさせていただきました。

ところで、長崎大学病院は国立病院で唯一「不活化ポリオワクチン(IPV)接種」を外来でされている病院です。せっかくの機会なので、講義前に同病院・小児科の中嶋有美子先生にお話を伺う場をセッティングしていただきました(高橋先生、ありがとうございました)。

長崎大学病院では今年の6月から外来でのIPV接種を開始されていますが、中嶋先生のお話によると「平成24年度末には不活化ポリオワクチンを導入する」という厚労省の発表後は、長崎大学病院でのIPV希望者の数は少し減っているということでした。

国によるIPV導入まで生ワクチンも輸入・不活化ワクチンもどちらも打たずに「待つ」という保護者がいることが予想されますが、これはもし国内でポリオが流行してしまったときや生ワクチン接種後の糞便中からの2次感染のリスクを考えると「待つ」という選択はおすすめできないとのことでした。僕もそう思います。
希望者が少し減ったとは言え、IPV外来の新規患者さんは約1ヶ月半待ちとのことで、ニーズに応えきれていない現状とのことでした。

神奈川県は、県によるIPVの輸入を決定し、現時点ではIPVは国の承認を得ていないため接種による健康被害に対してPMDA法による補償を受けることができないため、IPVに対する県独自の補償も準備しています。

生ワクチンも不活化ワクチンもどちらも打たずに「待つ」というリスクをなくすためには、やはり国によるIPV承認まではIPVを国が緊急で輸入し、補償の問題もクリアすることが必要だと思います。

中嶋先生、お忙しいなかお時間をつくっていただき、ありがとうございました!

さて、長崎大学の医学科では卒業までに「医学ゼミ」で6単位取得しなくてはならないそうで、そのゼミの1コマの講義を担当させてもらいました。昨年に続いて2回目になります。

医学科4、5年生8名ほどが聴講してくれました。
地域医療のゼミなどで、僕が昨年3月まで赴任していた北海道幌加内町での地域医療の経験を中心にお話をしました。

幌加内には佐賀大学病院・総合診療部からの派遣で3年弱勤務しました。
幌加内町は蕎麦を主産業とした人口1700人台の町で、町立国保病院が町内唯一の病院です。もともと子育て支援や予防医療に力を入れている町で、町の保健福祉総合センターのセンター長を町立病院の医師が兼任するというのも特徴です。

ちょうどヒブワクチンが日本で発売開始になったタイミング(2008年)とも重なり、僕がセンター長をしているときに幌加内町に提案し、ヒブ・水痘・おたふくかぜワクチンの公費全額助成制度が2009年度から開始されました。翌年からは、さらに小児用肺炎球菌・HPVワクチンも公費全額助成を開始しました。
すでに中学生以下には公費全額助成を開始していたインフルエンザワクチンを加えた6種に任意ワクチンを公費全額助成した自治体としては日本初であることも紹介しました。

(ちなみにそんな幌加内での日々を綴ったブログ『ホロカナイライフ』もよろしく笑)

「へき地医療」というと一般にはネガティブなイメージもあるかもしれませんが、医療に理解を示してくれる首長のいる自治体とであれば、行政と連携し理想的な予防医療なども展開できる魅力を学生さんたちに伝えたいと思いました。

また任意ワクチンの話題から、日本のワクチンギャップ、ワクチン行政についても少しお話をさせてもらいました。

なるべく学生さんたちとディスカッションしながら講義をすすめたかったんですが、伝えたいことが多すぎて90分の講義をほとんど僕がベラベラしゃべってしまったことが反省です・・・

講義のあとは、へき地病院再生支援・教育機構の調教授、高橋先生が学生さんとともに懇親会を開いてくださり、長崎大学病院ちかくの焼き鳥屋さんに行きました。
懇親会に参加した学生さんは男子学生ばかりだったので、かなり暑苦しく、じゃなかった、熱く、情熱を持った学生さんたちと飲めて、なんか部活みたいだなあと思いました。


ちなみに僕も長崎大学の高橋優二先生ともに佐賀大、長崎大のボート部出身なので、そのへんのノリもばっちし合っていたように思います。


昨年も思いましたが、熱い学生さんと会えると、こちらが元気をもらいます。

長崎大学の学生の皆さんとも、また「ざっくばらん家庭医療勉強会」や来年9月に福岡で開催される日本プライマリ・ケア連合学会の第3回学術大会でお会いできればと思います。

今回お話させていたくだく機会を与えてくださった長崎大学病院 へき地医療再生支援・教育機構の調先生、中桶先生、高橋先生に感謝いたします。

これからもよろしくお願いいたします!
(総合内科部門 坂西雄太)

2011年12月1日

予防接種スケジューラー アプリ登場!

予防接種って大事なのはわかっていても、
とくに乳児期は種類が多いので
スケジュールを組むのも一苦労ですよね。

そんなあなたにおすすめのアプリが登場しました!

『VPDを知って子どもを守ろう。会』の小児科医とNTTドコモが共同開発したアプリが、今日から利用できるそうです。

主な機能は、予防接種の予定日入力、前日通知、接種日記録、VPD解説などです。

詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.know-vpd.jp/vc_scheduler_sp/index.htm

無料です。これはお得!笑

なお、現時点ではアンドロイド端末対応でiPhone には対応しておらず
ご利用前にドコモ ヘルスケアへの登録(無料)が必要とのこと。

もちろん、細かいことや事情により接種時期がズレたりした場合などは、かかりつけの先生にご相談していただきたいと思いますが
どんなワクチンがいつころ必要かがわかりますので
ぜひ妊娠中から活用していただければと思います。

またアプリはお父さんたちの方が得意かもしれませんので
お母さんまかせにしないで、世のお父さんたちにもこのアプリをどんどん使用してほしいと思います。

個人的にはiPhone用を待っています!
(総合内科部門 坂西雄太)