2010年9月8日

ワクチンの未来を考える(その1)

8月28日に博多で開催された第20回日本外来小児科学会の年次集会に参加しました。

昨年、僕が幌加内町国保病院に勤務しているときに細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会の皆さんから声をかけていただき、同学会でのシンポジウムで幌加内町の任意ワクチン公費全額助成の経緯についてお話させていただきました。

今回は、受講者としてシンポジム「髄膜炎関連ワクチンの導入経緯からワクチンの未来を考える」(座長:細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会副代表/耳原病院小児科の武内一先生)に参加しました。

「2008年12月から接種可能となったHibワクチンは4回で約3万円という価格に、緩和されつつあるが供給不足が続き、今年2月発売の小児用肺炎球菌ワクチンは安定して供給されているが4回で約4万円かかるため、普及は十分進んでおらず、いまも接種を待つ子どもたちに髄膜炎が発症するという事態が繰り返されている。しかし、ほとんどすべての海外先進国では、これらワクチンを定期接種化することで、小児の主要な重症感染症は過去の疾患となり、時間外診療の軽減をはじめ小児医療の負担が大幅に緩和されている。」(抄録より抜粋)という国内外の背景があります。

「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」からは事務局長の高畑紀一さんと会長の田中美紀さんより講演がありました。

同会は、細菌性髄膜炎に罹患した子どもたちの保護者の方々を中心に活動されている会です。髄膜炎関連ワクチン(Hibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン)の定期接種化を求め過去3年間で計4回のべ20万筆の署名を集め、厚労省や衆参両議院長への請願や、厚労省大臣・副大臣にも陳情されています。それ以外にもセミナー、シンポジウムやメディアでの情報発信なども行われています。
かつて日本のマスコミではワクチンの副作用ばかりが強調され、作為過誤(「するべきでなかったのに、した」)を重視する世論が作られたことが日本のワクチンギャップ(ワクチンラグ)、ワクチン後進国の原因の一つになりました。ワクチンの有害事象を0.00%にすることは困難ですが(これはワクチンに限らず、一般の薬についても言えます)、「ワクチンを接種しないことによる被害者の存在(不作為過誤「するべきだったのに、しなかった」)もしっかりと認識すべきと守る会のお二人も主張されていました。
日本では米国と比べ、ヒブワクチンの導入は20年遅れました。この20年で救えなかったヒブ髄膜炎で亡くなった子どもたちは概算でも600名、後遺症は負った子どもたちは1800名と考えられています。有害事象が起きた際の補償の充実も必要です。
また今まで小児科医などワクチンの必要性を説く声は絶えずあがっていましたが、これからはワクチンを受ける側(国民)からも声を上げ議論に参加したうえでの、国民的合意の必要性も訴えておられました。
そして現在、髄膜炎関連ワクチン(ヒブ、小児用肺炎球菌ワクチン)は任意接種のため全額自己負担になりますが、一部自治体では公費助成を行っており(ヒブワクチンの接種費用助成を行っている自治体は全国の約12%だそうですhttp://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/eb138d955652bfd14925775a0025c057/$FILE/20100708_2shiryou8-2.pdf)、
経済格差や地域格差が「いのちの格差」になっていると指摘され、これらのワクチンの定期接種化の必要性を説かれていました。

次に「米国のワクチン事情~細菌性髄膜炎ワクチンとACIP~」というテーマで国立感染症研究所感染症情報センターの神谷元先生から講演がありました。
神谷先生はご自身の米国での保健所(のような施設)での勤務経験も交え米国のワクチン政策決定の過程を説明されました。

米国にはACIP(Advisory Committee on Immunization Practices:予防接種の実施に関わる諮問委員会)という国から独立した組織があります。
ACIPはワクチンの専門家のみならず多方面の代表者が一同に会して科学的な根拠に基づいたオープンな議論を行い、ワクチン行政への指針を作成し国に助言して、これが政策に反映されます。また現行のワクチン政策の評価と改定を検討したり、ワクチンの品質・安全性もACIPでモニタリングされます。そして、これらのためには現場から正確で膨大なデータの集積が必要です。

現在、日本版ACIPの必要が叫ばれていますが、神谷先生が特に強調されていたのは「ACIPは氷山の一角であり、その水面下には現場の医師、研究者、保健所、製薬会社など多数の人々の協力・努力がある」ということでした。
形だけのACIPを導入するのではなく、それを支える大きな連携、システムを同時に作ることが必要です。
(「日本版」ACIPについては、神戸大・岩田先生や守る会・高畑さんのこちらの記事もご参照ください。http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/cf4e4a60fbae73f1806a83aad7963095http://medg.jp/mt/2009/09/-vol-245-acip.html


続く!
(写真は神谷先生とさかにし)

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