2012年1月9日

児童虐待防止研修会@佐賀市に参加しました

1月7日は佐賀市内で開催された児童虐待防止研修会に行ってきました。
最近、僕が入れてもらった「性と生を考えるネットワーク佐賀(SNS)」の武富さんに声をかけていただいての研修会参加でした。

会場には200300名ほどの聴衆で超満員。この研修会は佐賀県の中部保健福祉事務所の主催で、今回のテーマは「次世代を担う子供たちを心豊かに育てよう」でした。

初めに、「性の教育を通した人づくり〜心と体の一体的な支援に向けて〜」というテーマで、地域医療振興協会 ヘルスプロモーション研究センター長の岩室紳也先生による講演がありました。
岩室先生は泌尿器医としてHIVに関する診療を行いながら、公衆衛生活動、性教育など多岐に渡り活躍されています。

岩室先生は本当に面白く、かつ講演を聞いている一人一人が「自分のこととして」考えることができるように工夫されていました。

当日のスライドは、岩室先生のHPから1週間公開されていますので、こちらをご覧ください。いままでのご講演のスライドなども惜しげもなく公開されていますので、一般の方はもちろん、医療者も必見です。

多くの学びがあったのですが、とくに印象に残ったことをいくつかご紹介します。

まず、一般にどうしても児童虐待や性教育の話になると「子育ては素晴らしい」とか「命は大切に!」などスローガンを掲げてしまいます。しかし、それで本当に人の心に響くでしょうか?ということで会場にも、どういうときに命の大切さを感じましたかと尋ねられました。会場からは「自分に子供ができたとき」という応えがありましたが、岩室先生はそれでは子供を持たない高校生には伝わらないですよねと言われました。つまり人からの意見、他人事ではなく、高校生や聴衆一人一人が自分のこととして、考えられる、感じられるようにすることが大切ではないか。命がたいせつなのは真実だと思いますが、ただのスローガンの押しつけだけではウソくさいし、その時点で話を聞く気がなくなってしまうと思うので話すひとは「リアリティ」をもった自分の言葉、自分の失敗談などのエピソードを交えての語りが大切だと感じました。

また児童虐待や少年犯罪についてもマスコミはじめ日本人全体が「評論家」になって他人事として考えてしまっている傾向も指摘されました。虐待や犯罪をした若者に対して「親の顔が見てみたい」などと考えるのではなく、「なぜ自分や虐待や犯罪をおかさずにこれたのか?」と自分を主語に考えることで問題点の把握や解決方法が見つかるのではないか。

また児童虐待や望まない妊娠など、根っこは現代の日本社会(日本に限らず世界中)の人と人のつながり、関係性の喪失や関係性の拒否があると指摘されました。その解決には関係性の再構築、コミュニケーション能力の再開発が必要です。
と書くとなんだか壮大なことをしないといけない気がしますが、岩室先生が例に挙げた方法は、まずは家庭のテレビを1台だけにすると、家族一緒が同じテレビ番組を見ることになるので、そこに家族の会話が生まれます。例えばエッチなシーンではおじいちゃんがチャンネルを換えたり、恋愛のトーク番組から母娘が性や結婚について話す機会が生まれたりと「一緒にいる場」が生まれます。またケータイは自分中心のコミュニケーションで、メールの返信を5分と待てない若者も多いと言われていました。返信が遅いと友情にも響くとのことでした。とは言え、昔には戻れないと思うので、コミュニケーションや関係性の構築という点ではFacebookなどのソーシャルネットワークをきっかけにして、リアルな人間関係を広げられるといいかもしれないと思いました。もちろんネットワークは多けりゃいいというものではないのですが。

また岩室先生は自分は医者なので「人の命の儚さ」は実感できているが、若者たちには「死」が遠いため、「生」も遠くなっているのではないか。自分のためではなく、他人のためにお葬式は盛大に!と言われていました。

児童虐待も犯罪も常識があれば行いません。でも行ってしまうひとがいるのはなぜでしょうか?それは歯止めをかけることが「できない」から。この「できない」のは「こころが病んでいる」から。こころを病むとは、そのひとの優先順位が周囲のひとの思慮、分別を大きく離れること。つまり自分の欲、優先順位が常識から大きく離れてしまっても歯止めがきかない状態で、自分が遊びたいから子育てを放棄する、他人に無視されたら復讐に殺してしまう、というようになってしまう。では、みなさんの「こころが病んでいない」のはどうしてか?それは、いろんな人、周りの繰り返しの声かけ、応援、つながり、支え合いの「環境」があったからです。
知識、教育はもちろん大切ですが、それだけで人は変われません。人は人との対話や環境におかれて初めて変わることができます。そのような対話、関係性、環境をつくることが重要だと主張されました。

ほかには公衆衛生、予防におけるハイリスクアプローチとともにポピュレーションアプローチの重要性もお話されました。

中学校の教科書に「妊娠すると生理が止まる」ことは書いてないそうです。知りませんでした。岩室先生は医療者は、教科書にも目を通すことをすすめられています。

もっともっと勉強になることがあったのですが、僕の文章力とまとめる力がないのでこれが限界です(笑)。ぜひ、岩室先生のHPや著書をお読みください。
岩室先生は「コンドームの達人」としてYoutubeでも多大なヒット数をたたきだしていますので、こちらもご覧ください。

その後に岩室先生が司会をつとめ、シンポジウム「次世代を担う子供たちを心豊かに健やかに育てよう」が開かれました。

シンポジストは伊万里の浄土真宗僧侶の古川潤哉さん、スクールカウンセラーの吉村春生さん、元佐賀県中央児童相談所長の谷川弘幸さん、神埼市母子保健推進員の菱岡智美さんでそれぞれの立場からのお話とディスカッションが行われました。貧困を是正すること、居場所づくりや「評価しない」環境つくり、相手を変えようとしない姿勢、また多様性を認め、安心感や自己肯定感を子供たちや大人ももつことの必要性などが議論されました。一方で、つながりを持つのってけっこうめんどくさい、でもどうすればよいか、など本音のトークもあって良かったと思います。こういう議題だとみな聖人君子になってしまう傾向がありますが、そうではなく生身の人間として問題を考えることがまず第一歩だと思いました。

講演のあとには岩室先生から個人的にもいろいろとアドバイスをいただき、本当に研修会に参加して良かったと思いました。また佐賀県内の保健師さん始め、積極的に健康問題に関わっておられる県内の方々にお会いすることができて自分のネットワークも広げることができ、とても有意義な連休初日でありました。

しかし、僕まとめるのが下手だなと思ってたら、古川さんのブログにも報告が。
あ、佐賀新聞にも載るそうです。そちらもご覧ください。

(総合内科部門 坂西雄太)

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