2010年11月29日

医療の質・安全学会に行ってきました

週末は、幕張メッセで開催された「医療の質・安全学会」に行ってきました。

「任意ワクチン公費全額助成に関する北海道幌加内町の先駆的取り組み」と題して『地域医療』のセッションで発表しました。
幌加内町の助成制度について前回は、医療者側から地域の保健・医療について行政に対して積極的に提案し関わることが大切だと発表しましたが、今回は「行政側からの視点」で発表しました。
医療者と行政(そして住民)どちらともに地域医療・予防医療に理解がなくては、有効な保健・医療政策は実現できません。

幌加内町では町立国保病院が町内唯一の病院であり、町立病院の医師が町の保健福祉総合センターのセンター長を兼任しているのが特徴です。センターでは月数回、住民の福祉・介護サービスについての会議などがあり、医師、行政(保健福祉課)、社会福祉協議会の方々とのコミュニケーションが良くとれ連携が取れています。
また町の保健・医療政策の立案から実行までの全ての過程で、医師・保健師が関わります。

予防医療のひとつとしてワクチンはとても重要ですが、ワクチンの効果を最大限に発揮させるためには高い接種率が必須です。

日本のワクチン行政には、いままで米国のACIP(予防接種諮問委員会)のように国から独立したワクチンの専門機関がなかったため(昨年、厚労省内に「予防接種部会」が発足したことは大きな進歩ですが、国から「独立」した機関ではありません)、専門家が関与できていませんでした。このことが世界に10年以上遅れた「ワクチンギャップ」を生みだした原因のひとつだと思います。

海外での実績で効果・安全性が確認されているワクチンによる疾病予防は「社会保障」として国による定期接種化が必要だと思います。
数ある病気のうち、ワクチンで予防できる病気はほんの少しですが、せっかくワクチンで予防できる病気を予防しないのは、とても歯がゆいです。
いまの「任意接種ワクチン」のままでは接種費用は全額自己負担となり、経済格差の問題があります。
またワクチンに関する正しい情報が少ないため、いまだに国民にワクチンに対する根強い不安があるように思います(逆に最近のHPVワクチン報道のように、ワクチンさえしていれば大丈夫という過信も問題です。幌加内では町立病院の医師が中学生と保護者にHPVや子宮頚がんについて講演をして、理解してもらってから希望者に接種しています)。
つまり、これはワクチンに限らないことですが、現状では経済格差と情報格差が「健康格差」になっています。これらの改善には行政の力が不可欠です。

先日、今年度の補正予算案が通り「ヒブ、小児用肺炎球菌、HPVワクチンに対する公費助成(ただしこれらのワクチンの公費助成を行っている自治体のみへの国からの補助。今年度と来年度のみ)」が決まりました。
これは、いままでと比べると大きな一歩ですが「定期接種化」されたわけではなく、救済制度などの法律上の問題はまだ解決されていません。
また、いままで助成制度のなかった自治体に住んでいる方は「助成制度」が始まるまでワクチン接種を待ってしまうことも予想され、そのことも心配です。
ヒブや肺炎球菌は子どもの細菌性の髄膜炎の2大原因であり、感染症は「助成」を待ってはくれません。子ども手当を使って、ぜひできるだけ早くから(生後2カ月から)接種してほしいと思います。

幌加内町はもともと予防医療や子育て支援に力を入れていましたが、これらの格差を解消すべく、平成20年度~インフルエンザワクチン(中学生以下)、
平成21年度~ヒブワクチン、水痘、ムンプス(おたふくかぜ)ワクチン、
平成22年度~小児用肺炎球菌ワクチン、HPV(いわゆる子宮頚がん予防ワクチン)ワクチン(中学生女子)の公費全額助成(⇒経済格差を解消)を行っています。
さらに医師・保健師が協力して住民にワクチンや助成制度について積極的に広報し(⇒情報格差を解消)、高いワクチン接種率を達成(平成21年度の7カ月未満児のヒブワクチン接種率は78.6%)(⇒健康格差の縮小へ)しています。

よく「幌加内は人口が少ないから、少ない予算で実現できたんでしょ?うちは人口が多いから~」と言われますが、大切なのは地域ごとに「いまの状況を少しでも改善するにはどうするか」を行政・医療者・住民が一緒に考えて、できることから取り組むことだと思います。
「全額」助成が無理でも一部助成をしたり、情報提供を行うことは工夫次第でいくらでも可能だと思います。たとえば子宮頚がんについては、ワクチン以外にも子宮がん検診の受診率を上げる工夫や中高生からの性(感染症)教育など、ほかにも大切な情報をきちんと伝えることも大切です。


大事なのは地域のことを真剣に考えている人間が知恵を出し合って協力することだと思います!!

…ついつい熱くなってしまいました。

医療「政策」は、医療の論理だけではなく、政治や経済の論理ももちろん絡んでくると思いますが、医療者としてはせめて「医療・医学の論理」だけは行政に理解してもらいたいので、幌加内町のように医療者からの意見を政策立案に取り入れるシステムは重要だと思うのであります。

発表した会場には残念ながら行政関係の方はおられないようでしたが、僕と同年代の医師や看護師の方が熱心に聞いてくださってとても嬉しかったです。
できるところから少しずつ、良くしていきましょー

今回の医療の質・安全学会には、
佐賀大学病院・総合診療部からは

『大学病院の診療連携を基軸とした佐賀県診療録地域連携システム(pica pica LINK)の推進(江口有一郎先生)』
『女性新規患者の疾患分布からみた、大学病院総合外来の地域医療における役割(西井緑先生)』
『多職種からなるチーム医療によるメタボリックシンドロームに対する外来クリティカルパス(江口先生)』
『大学病院総合医による診療データ共有システム(pica picaリンク)の利用経験(副島修先生)』
の発表がありました。

佐賀大学病院・卒後臨床研修センターの江村正先生は『模擬患者グループの協力で行っている研修医のコミュニケーション教育の紹介』を発表されました。
あ、今回の学会の大会長は同・総合診療部の小泉俊三教授で、会長講演として『今、あらためて医療コミュニケーションを問う』がありました!

また「医療の安全・危機管理」についてや、今回の学会のテーマは「いま、あらためて医療コミュニケーションを問う」ということで医師・患者コミュニケーションについても講演が多くありました。

そのうちのひとつで、EBMでおなじみの名郷直樹先生の教育講演『患者と医者は話が通じているか:患者と医師とのギャップを直視する』もとても面白かったです。
『問題は患者と医師の情報格差ではない。現象と流布される情報の格差である。』(名郷先生のツイートより)ということで、その格差、ギャップを縮めるためには構造主義科学論に基づいて医療を語ることが大切とのことでした。
コーゾーシュギカガクロンというと何やら難しいですが、現象(現実に起こっていること)と世間に流れている情報とのギャップを自覚・理解するための方法論のようです。

詳しくは名郷先生の著著やホームページをじっくりご覧ください。僕も勉強しようと思います。
また佐賀大学病院・感染制御部の青木洋介先生の教育講演『感染症医療の質向上に求められるもの』も勉強になりました~


佐賀から幕張まではなかなか疲れましたが、いろいろと刺激と出会いがあり、また頑張ろうと思いました!
(総合内科部門 坂西雄太)

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