2011年4月1日

『退院調整(リエゾン)ナースの役割と地域医療について』講演会のご報告

今日から新年度ですね。当講座総合内科部門でも今日から、新たな5名の後期研修医の先生たちがそれぞれの病院で研修を開始されます。

さて、3月28日に当講座と佐賀大学病院地域連携室が主催した講演会のご報告をいたします。

入院患者が退院後に地域の医療機関や自宅にスムースに戻れるよう、入院時から積極的に患者・家族と医師、コメディカル、MSWに関わり、退院調整・支援を行う看護師を退院調整ナースと呼びます。

当院では平成22年度より「地域医療連携室看護師」が同様の業務に当たっています。
また各病棟に退院支援ナース1名を担当として業務ができるよう現在準備中です。

全国に先駆けて退院調整ナースを導入し、地域連携がスムースに行われている織田病院(佐賀県鹿島市)の実例をお聞きすべく今回の講演会を企画しました。

織田病院では退院調整ナースのことをリエゾンナースと呼ばれています。

ここで言う「リエゾンナース」とは、もともと看護領域で使われる「リエゾン精神看護師」のことではなく、病院と地域をシームレスにつなぎ退院支援・調整を実現する機能を欧米では”Liaison”と称しており、この「連絡・連携・橋渡し」という意味で用いられています。

織田病院理事長の織田正道先生には、このような退院支援・調整が必要となった背景やリエゾンナースの大まかな役割についてお話いただきました。

背景としては、①超高齢化社会の到来(入院需要率が高い後期高齢者人口の増加、治療後の療養にも長期的な支援が必要)
②家族形態の変化(独居・高齢者世帯の増加)
③医療制度改革(平均在院日数の短縮化、脱施設化と在宅医療推進)などがあります。

在宅や介護施設への退院支援・調整には、MSW(医療ソーシャルワーカー)との協働しながら、ケアの継続のためにも看護の専門性が必要であることを強調されていました。


次に、同病院でリエゾンナースと連携センター師長をされている田島まり子先生より、リエゾンナースの具体的な業務内容について主にお話いただきました。
まず、わが国における、「退院」へとらえ方の変化について説明されました。

これまでの「退院」は、患者が療養生活を自立して営むことができるようになったとき(患者に専門職の援助が不要になったとき)だったのですが、現在の「退院」は「患者の病状が入院適応ではなくなり、地域で、療養することが可能となったとき」(専門職の援助は継続的に必要ではあるが、入院の必要はない)に変化しています。しかし、患者・家族そして医療機関もそのための準備ができていません。

以前は、病院は「疾患の治療」に専念しているだけでよかったかも知れませんが、これからはそれと同時に「生活の場に返す」ことも重要な目的であることを医療者がまず認識することが必要です。

織田病院では、平成18年よりリエゾンナースの取り組みを開始され、1~2年かけて病院職員の意識改革、看護師への教育を行い、平成20年より各病棟にも病棟リエゾンナースを設置されています。

退院支援が必要な方のスクリーニング・アセスメントを行なうツールとして、退院支援フローを病院のコンピューターネットワーク上に置き、多職種が共通のフローに乗って記入、確認ができるようになっています。
また、組織的な体制づくりもされ、定期的な病棟カンファレンスや「退院に向けてのカンファレンス」が行なわれ、看護師やMSWだけでなく、主治医やリハビリスタッフ、ケアマネージャー、訪問看護師、ときには患者・家族も参加して、関係者が「退院後の生活をイメージして」問題点を早くから抽出し対応されています。

病棟リエゾンナースがこのような院内連携の核になり、情報が集約されます。

退院支援を受けた患者の追跡調査では、退院時はそれなりの不安をかかえていた患者・家族も、退院後にはほとんどの方に不安がない状態にあるとのことで、入院中からの「退院後の生活をイメージした支援」の成果だと思いました。


今回の講演会の日程が、ちょうど初期研修医の研修修了式と重なってしまって、研修医が参加できなかったのことだけが残念でしたが、看護師を中心に150名弱の方々にご参加いただきました。
講演後の質疑応答も盛り上がり、大学職員の関心の高さも伺えました。

これからも地域医療支援学講座では、大学(病院)と地域との橋渡しに少しでもお役に立てればと思っています。

(総合内科部門 坂西雄太)

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