2011年5月31日

PCAT(日本プライマリ・ケア連合学会 東日本大震災支援プロジェクト)に参加しました

5月23日より5月29日まで日本プライマリ・ケア連合学会の東日本大震災支援プロジェクト(PCAT : Primary Care for All Team、ピーキャット)に参加しました。
僕らが所属している、日本プライマリ・ケア連合学会は

『プライマリ・ケア(家庭医療・総合診療)の学術団体として特色ある災害支援を行うべく,医師をはじめとする多職種の医療専門職で構成された災害医療支援チームを被災地に派遣することを決定し(中略)プライマリ・ケアの能力を最大限に発揮し,被災者の避難生活を医療の面から包括的に支援する活動を続けています。私たちの最終目標は,地域の保健・医療・介護職の皆さまが元通りの力を取り戻されるまでのご支援です.それぞれの地域の特性や人脈を最大限尊重し,支援者目線の支援に陥らないよう,被災地の方々が真に必要とするニーズを探り出し,柔軟に対応し,支援と協働を提供しています』(日本プライマリ・ケア連合学会HPより抜粋、引用)

PCATは
①現地の医師(在宅診療含む)の代診
②避難所の医療支援
の2つを柱に活動を行なっています。

現在、主に岩手県藤沢町ハブ(宮城県気仙沼市で活動)、宮城県涌谷町(わくや)ハブ(宮城県石巻市で活動)、福島県天栄村ハブ(同村国保湯本診療所医師が活動)で活動を行い、
現在までにのべ200人強のスタッフを派遣しています。

また在米医療者による災害地支援NPOであるProject HOPEの活動に対して、今回PCATが受け皿となり、Project HOPEからの在米日本人医師・看護師の皆さんとも一緒に活動しています。

僕は前日の5月22日にPCAT派遣前研修を東京で受け、被災地における様々なケア、そして支援者自身のメンタルケアなどについてレクチャーを受け、グループ学習をしました。
また今は災害サイクルが亜急性期から慢性期に移行し、外部からの医療支援が徐々に撤退している中での医療ニーズについてもレクチャーを受けました。
そのなかで、前述のようにあくまで現地のニーズ、継続性を常に考え、支援者のエゴを押し付けないようという意味での『最高ではなく、最適を』という言葉が印象的でした。

僕が派遣された涌谷ハブでは現在、以下のプロジェクトが行なわれています。

①遊楽館の医学的管理と運営

介護を要する方(介護保険の要介護者)の『福祉的避難所』である「遊楽館」における医師、薬剤師、コメディカルスタッフの派遣と各部署におけるシステム構築、他職種チーム医療の実践。
遊楽館内における医療管理面、また石巻市役所、石巻市立病院と他団体との調整役として大きな役割を担っている。

②石巻/河北地区における在宅診療

JIM-Netの在宅看護ネットワークと協力体制を組み、石巻河北支所からのニーズに沿った在宅医療への介入。
また地域開業医の在宅診療代診の実施。

③石巻圏における検視と死体検案業務

石巻警察と石巻医師会への協力業務。
事件性の薄い案件に限り、可能な範囲において協力体制を継続していく。

④ 医療避難所「ショートステイベース(SSB)」における地域連携型医療活動及びその医学的管理と運営 

民間病院内にある一時的避難所「ショートステイベース」への介入。
災害本部より医学的管理を要する避難所の定点活動要請を申し受けた。
災害本部、施設提供先、また行政機関との相互協力体制を維持しながら、地域特性と都度、災害復興ニーズ変化に柔軟に沿うことのできる避難所施設の運営を目指す。
関係機関などを含め地域連携機能を高める事で、より多くの医療を必要とする被災者の方のクッション機関となれるよう現在プロジェクトを計画進行中。日中PCAT医師駐在夜間オンコール体制、看護師2交代制勤務実施中。

⑤石巻圏のリハビリ在宅診療

宮城県保健所からの要請に沿い理学療法士のサポート業務、また河北エリア等の石巻圏内における在宅リハビリ診療と住環境アセスメントを実施。

⑥健康調査RHITEプロジェクト

当学会指定避難所2か所における健康調査、その結果返しを実施。

⑦PCOT及び日本助産師会の母子健康保健活動

PCOT医師と助産師による石巻圏内における母子健康のニーズ調査と介入日本助産師会より派遣された助産師による東松島市圏内における新生児自宅訪問


石巻圏では、いまでも160ヶ所以上の避難所に5000~6000人近くの方が、公的な避難所以外で生活をされている方を含めると1万人ほどの方が自宅以外での生活を余議なくされています。
石巻の災害本部では、石巻圏のエリアを1-14ケに分け、各救護班(各地の日赤や公的および民間の医療施設・団体による医療チーム)エリア内の避難所を担当します。

毎日18時から石巻日赤病院で救護班合同ミーティングが行なわれ、災害本部からの通達や情報共有がなされています。

僕はProject HOPEの医師・看護師の皆さんとともに上記④の医療的避難所「ショートステイベース(SSB)」での業務を1週間させていただきました。
このSSBは4月上旬から設置されおり、高度の医療が必要ではないが、医療・社会的理由から避難所での生活が困難な方が一時的に入所する医療的避難所で、いままでの日本の災害地にはなかったコンセプトの避難所だと聞きました。
とくに初期は地域の医療機関が再開されておらず、各避難所から直接、石巻日赤病院に患者が集中し、日赤の機能を上回ってしまったため、避難所と石巻日赤との中間(クッション)施設としてSSBが開所されたそうです。

で、最近まで様々な医療救護班が午前・午後と入れ替わり立ち替わり、SSBを担当していたのですが、今回5月25日よりPCATが全面的にSSB業務を担うことになりました(5月31日まではジャパンハートからの看護師と協働)。

施設はそれまで利用が休止されていた民間病院の病棟を借用しています。

PCATがSSB業務を引き継ぐに当たり、再度、その統括機関である石巻日赤病院はじめ関係各者と協議し、現地の医療・福祉的ニーズと現在のSSBの施設的な問題点などを確認し、今後のSSBの方向性を決定しました。

またSSBはあくまで「避難所」であり、入所者の食事は石巻市から配給になるため、PCATが連携している日本栄養士学会のボランティアに依頼し、食事内容について介入していただくことになりました。

現時点でのSSB入所対象者は主に以下のとおりです。

①数日~数週間の点滴・内服・安静や簡単な処置が必要な入所者
(入院患者が直接、避難所などに戻れない場合の一時的待機も含む)
②原則として10歳以上(付き添いがあれば、10歳未満児も検討)
③隔離が必要な感染症、感染症が疑われる入所者

また、将来的には地域の医療・介護・福祉関係者だけで、この地域を担われることになるため、PCATの活動がtoo muchになることなく、かつ継続的な地域のネットワークの構築・維持のお手伝いをさせていただけるといいでのはないかと考えました。

今後しばらくは、PCAT活動の原則どおり、あくまで現地のニーズに沿うかたちでSSBを活用することにより、PCATとして石巻圏の医療・福祉をサポートさせていただければと思いました。

1週間という本当にわずかな期間でしたが、現地での医療に関わらせていただき、僕自身はいろいろと学ばせていただきました。

そして、現地に入るまで頭では理解していましたが、現地を見て、被災された方々にお会いして、現地の甚大な被害状況やそこで暮らされている方々の心の痛みとその回復、復興までにはまだまだ時間がかかってしまうことも実感しました。

震災から2カ月以上が経ち、現地の方々の疲れ・ストレスは相当なものだと思います。医療だけではどうにもならない問題もありますが、やはり心のケアも重要です。

また、全ての方が仮設住宅に移れるのは9月になるとも言われ、これからの季節、梅雨や豪雨、夏の暑さの中、避難所での生活が続くことも心配です。

直接的にも、間接的にも、本当に長期のサポートが必要です。

PCATでは医師、看護師など医療者のみならず、医学生の参加も可能です。僕が参加したときも東京医科歯科大学の6年生が参加されていました。佐賀大学はじめ九州の医学生の皆さんも是非、参加してもらえればと思います。

(総合内科部門 坂西雄太)

1 件のコメント:

  1. 坂西先生!
    石巻での活動お疲れ様でした。PCATが新たにSSBに関わるにあたり、坂西先生が引っ張っていってくださった事、本当に心強ったです。ありがとうございました。

    PCATは石巻を末永く応援していきます。

    また、ここ涌谷ハブには色々なバックグラウンドを持つ皆様が集います。坂西先生のブログを愛読されていらっしゃる皆様にも是非参加して頂けましたらうれしい限りです。どうぞ宜しくお願い致します。

    黒川美恵子@宮城県遠田郡涌谷町

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