2010年6月8日

小児科救急・小児救命救急

佐賀新聞社発行の生活情報誌「f i t」 6月4日号に、当講座「小児救急総合部門」の人見先生の記事が載りましたのでご紹介します。


小児科救急・小児救命救急
自転車で転倒し、夜になって嘔吐。
どうしたら・・・

Q.今日の夕方1歳の子供と自転車に乗っていて転倒しました。子供はどこも痛がらなかったので病院には連れて行きませんでしたが、風呂に入れる時に肘とおなかの皮膚に内出血のような痕(あと)があるのと、たんこぶにも気付きました。夜になって嘔吐しました。どうすればよいでしょうか。この子の兄が昨日から嘔吐下痢症です。(30歳女性)

A.相談の文面からは、嘔吐の様々な原因・重症度の可能性から、結果的に受診する必要がなかった可能性もあれば、消化管の損傷などによる誰にも気付かれない夜間の急変など最悪のケースも考えられます。それでは、日中であればこの子はどこを受診したでしょうか。小児科?外科?脳外科?整形外科?それとも総合病院の救急(科)?正解はありません。しかし、昼でも夜でもどんな訴えの子供でも、必ず一旦受け入れその後の診療の道筋をつてくれる窓口があれば、質問の方はそこに連れて行くか行かないかを決断すればよいのです。

小児科医は子どもを何でも診る?

 本日のお題は「小児科救急・小児救命救急」です。読者の皆様は、また医師など医療従事者の方でもこのよく似た2つの言葉の違いをイメージできないかもしれません。日本では歴史的に「小児救急」と称して夜間・時間外小児科外来中心の「小児科救急」整備のため、小児科医の確保が地域ごとに進められてきました。しかし小児科医は本来小児内科医で外傷など外因性疾患に習熟しておらず、小児死亡原因の多くを占める不慮の事故など外傷の子供の重症例は、主に救命救急センターの救急医や救急指定病院の各科医師など必ずしも小児に習熟していないと思われる医師が診療してきました。

1-4歳児の死亡率が突出

 日本は国土が狭くインフラが整備され、病院の数も多く国民皆保険も充実しているなど救急医療にアドバンテージを持っています。世界保健機構(WHO)のデータでも日本はあらゆる年代で死亡率が各先進国の平均を圧倒的に下回っています。しかし唯一1~4歳の死亡率のみ各先進国の平均を大きく上回る異常な突出が見られ、日本の医療水準からは考えられない死亡が小児では生じています。原因として小児救命医療や小児集中治療制度の未整備、更には重症小児との認識不足による不適切な搬送先の選定などが指摘されています。

小児救命救急システムの整備を

 日本の小児死亡を減らすには、今までのように小児科医が受動的に黙々と「小児科救急」を行うことでは解決しません。小児の扱いに慣れた小児科医と外傷など外因性疾患に慣れた救急医(や各外科系医師)の診療チームを背景に持ち、内因性・外因性疾患を問わずあらゆる小児を受け入れる、常に開かれた小児ER(救急救命室)とそこに専従する医師がいれば理想的です。小児ERでは医療従事者が、質問の例など様々な症例に対して診療の優先順位をつけ(トリアージ)、医療者の目で拾い上げた重症例から治療される「小児救命救急」が行われます。佐賀県では全国に先駆け佐賀大学病院などでこのシステム整備が始まっており、日本各地、特に地方における地域完結型小児救命救急モデルとして期待されています。


人見先生から ひとこと
「地域の総合力でこどもの命と健康を守るシステムを育てましょう。」

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